「な」から始まる小さなお話*

<泣いて生まれる。>

泣いて生まれる。
それがぼくらだ。

泣いて生まれ
そのあとになって
ぼくらは笑うことをする。
だからぼくらにとって
もっとも慣れ親しんだ行動は
笑うよりも泣くことなのだ。

しかし
それはいつしか逆転する。
ぼくらは泣くよりも
笑うことを多くするようになる。
そして次第には
もっとも慣れ親しんだ行動が
泣くよりも笑うことになる。
この変化を記念して
成長と呼ぶことにする。

一つの大きな細胞が
分裂をくり返すことで
ぼくらのカタチはできあがる。
それは感情でもおなじだ。

一つの大きな感情が
分裂をくり返すことで
ぼくらのこころはできあがる。
そしてその
元となる一つこそが
泣くことなのだ。

泣くことしかできなかったこころが
二つに分かれて
ぼくらは笑えるようになる。
そしてまた
それらが分かれて
新しい感情を手に入れる。
そうやって
こころは細かく豊かになっていく。

大人になっても
ぼくらは泣くことがある。
それは
また生まれたときなのだ。

泣いて生まれる。
それがぼくらだ。

そこからまた
分かれていって
新しいなにかを手に入れるのだ。

泣く
ということは
元となるなにかを手に入れた
ということなのだ。

そしてまた
ぼくらは笑うようになり
笑うほうがふえていくことで
成長をとげていくものなのだ。

イデトモタカ(2011年11月20日)