「に」から始まる小さなお話*

<ニンニクの共犯。>

ニンニク料理が好きな女の子は、
じぶんが頼んだり食べたりすると、
必ずぼくにもそれを強要する。
それが家でも、外でも、
このあと、じぶんだけニンニクくさいのが、
絶対にイヤだから、と、
ぼくを勝手にニンニクの共犯者にする。
共犯にされたぼくは、
おいおいと呆れながらも、まんざらでもない。
二人してニンニクくさくなりながら、
それが日常の思い出になっていく。
彼女はじぶんの「おいしい」を、
一人占めするのでなく、
ぼくにも分けてくれていることを、
ぼくはこっそり知っている。

ある立派な会社の社長の、
秘書のような、雑用係のような、
いつも側にいるおじさんがいた。
雑用のおじさんはいつも社長の近くで
なんでもかんでも頼まれごとを受けている。
学生のように運動量の多いおじさんのスーツは、
いつしかくたくたになっていた。
ある夕、社長がおじさんにいった。
「新しいスーツを買いたいから、車を出せ。」
おじさんはわかりましたと、車を出した。
そして高級ブランドのお店の前で、車を停めた。
社長は荷物が多くなるから、
店の中までついて来いといった。
おじさんはいわれたとおりについていった。
そして社長がその店でも一等にいいスーツを
試着しているのを近くで見ていた。
それはおじさんの給料の何ヶ月分もした。
社長が店員にいった。
「このスーツをくれ。
俺と、こいつの分と。」
そういって雑用係のおじさんを指差した。
おじさんはびっくりしてひっくり返りそうになった。
社長はいった。
「ここのスーツは高いから、妻には内緒だぞ。
お前も共犯だからな。」
そういって笑った。
おじさんは泣いてうなずいた。

人はときとして、相手を共犯者にする。
あくまでじぶんがそうしたいのだ、
お前はそれに巻き込まれたのだ、運が悪いなと、
そういって行動をことばで包む。
けれどそれはいつだってバレていて、
だからこそ、なおさらにうれしいものなのだ。

イデトモタカ(2013年1月27日)