「わ」から始まる小さなお話*

<わたなべ。>

わたなべ、という苗字の
女の子の幼なじみがいます。
おなじマンションで、
小学校からの付き合いです。

ぼくは彼女のことを、
「わたなべ」と呼びます。
わたなべもぼくのことを、
「イデ」と呼びます。
たぶん、はじめて小学校で
おなじクラスになってから
以後ずっと、
そうやって呼び、呼ばれています。

これからの人生で、この先、
新しく出会った女の子や人のことを
苗字で呼び捨てにすることは、
ないんじゃなかろうかと思います。
「田中」なら、「田中さん」だし、
「浜崎」なら、「浜崎さん」だし、
仮に「渡辺」でも、
その人は「渡辺さん」なのです。

おそらくぼくも、
これから出会う女の子や人に、
「イデ」と呼び捨てにされることは
なかなかないんじゃないかと思われます。

人には「呼び捨てにされる資質」
というものがある気がするのですけれど、
その資質はぼくにはほとんど「ない」感じです。

あと何十年生きるのかわかりませんが、
あと何人「苗字で呼び捨て」にする女の子や人に、
新しく出会うのかは、ぼくのこっそりとした
人生のたのしみのひとつです。
もしかしたら「わたなべ」が最後かもしれませんが、
それはそれで、よしなのです。

イデトモタカ(2012年5月27日)