「を」から始まる小さなお話*

<をかし。>

「をかし」というのは明るい知性的な美、なのだそうです。
他方「もののあはれ」はしみじみとした情緒美なのだとか。

明るい知性的な美、というのは、
なんだか草原を裸足でかける少女のような、
輝く元気さが見えるようでいいなぁと思います。

老若男女を問わず、ずっとそんな存在でいられたら
と望みますが、実際はなかなかそうはいきません。
歳をとるにつれてなのかどうかは知れませんが、
人は暗いこと、ネガティブなことをいうようになります。
どうしてかなと考えると、やはり容易でラクだから
なのではないかしらんと思います。

人は流れる生きものです。
意志のない木の葉のような存在であるならば、
ただ浮かんだ河の流れに従ってゆくまでです。
けれど、意志をもった魚であるのなら、
流れに乗ることも逆らうことも可能になります。
とはいえ、逆らうことにはエネルギーが必要です。
だからこそ、疎んで身を任せる人が多いのだと思います。

どうして後ろ向きなことをいうのはラクなのか。

その根源は死の意識、
人の一生の儚さにあるのではないかという気がします。

私は癌だから死ぬのではない。
生まれたから死ぬのだ。
すべての人の死因は、生まれたことである。

そんなことを言ってこの世を去った哲学者がいました。
「後ろ向き」という表現がありますが、
実際には前向きの前の前の前が暗闇なのですから、
そちらの方が絶望です。
前方をしっかりと目を逸らさずに
凝視しつづけることのほうが大変です。
あ、だから中途半端に目を背けたいがために
「後ろを向く」んでしょうかね。

なんだか可笑しなことですが、
前向きで元気なことをいうのはエネルギーがいります。
でも、ということは、痩せるのかもしれません。
つまりそれが、心身にとって健康的な代謝であり、
明るい知性的な美、「をかし」なのではないかと思うのです。

イデトモタカ(2013年7月6日)