黒より黒い黒。

わたしはどちらかというと飽き性で、
長年なにかひとつことに打ち込んでいる、
というようなひとのことはものすごく尊敬する。
ひととして自分よりも上だ、という気すらしてしまう。
実際にスポーツで名を上げているひとの多くは
長い時間その競技に、それだけに打ち込んできたひとだ。

わたしはこれまで、それほど転職したわけでもないのに、
いろんな仕事を経験させていただく機会があり、
どの仕事、立場でも「そこそこの成果」は残せた。
飽きちゃう前に仕事が変わると気持ちも入れ替わり、
いつも働くことを楽しめたのだけれど、
でもどこかで「大きな成果」は残せていない負い目があった。
「スペシャリスト」と評されるまでになったひとを
ただただ羨んでしまったことだってある。

先日、プリンターで出力する際の「色」について
とても興味深いことを教えてもらった。

K(ブラック)100%にC(シアン)、M(マゼンダ)、Y(イエロー)
を加えると、「黒よりも黒い黒」になるんだよ。

一般的に「黒」と呼ばれる色に、他の色を加えると
「黒よりも黒い黒」になる、というのだ。
その、黒より黒い黒は「リッチブラック」というらしい。
デザインの業界ではあたりまえのことらしく、
そうでない方も皆知っていることなのかもしれない。
でも、黒より黒い黒がある、黒より黒い黒になる、というのは
プリンター、色のはなしだけに限らないな、と思ったのだ。

リッチブラックについて調べてみると、
「深みのある黒」とか「引き締まった黒」なんて表現されていて、
黒よりも黒い、黒の中の黒、
もう「黒のスペシャリスト」と呼んでしまいたい賞賛を浴びている。
未だ何者でもないわたしにはとっても輝かしいことば。

何かひとつことに打ち込んだひとはすごいと思っていたけれど、
でも、ただただそれだけやってきたんじゃなく、
ひとつに軸を置き、そのためにいろんなことをやったひとが
本当のすごいひとになってるんじゃないのかな、と気がついた。
フィギュアスケーターだって、スケートの技術ももちろんだけど、
バレエで表現力を磨いたりしているしね。

今まで「黒」は「黒」だと思っていたけどそうじゃない。
ひとこと「黒」と言っても、グレーっぽい黒も、
青っぽい黒も、赤っぽい黒も、いろいろある。
生きているといろんな経験=色を重ねていくし、
いろんな色が折り重なるとどんどん黒くなるってことが
ちょっと恐ろしく思えることだって、そりゃぁある。
でも、それまでの経験が全部詰まった色が黒で、
それぞれに違う黒を皆が持っているんだ、と思うと
なんだかすてきじゃない?

わたしはまだまだ何事も成し遂げてない感満載なので、
何かしらの軸を持とうと右往左往しているところ。
順番は違うかもしれないけれど、軸が定まった暁には
これまでのいろんな色の経験が深みとして生かされるに違いない。
だから、いろいろ経験してきた人はそれを糧にすればいいし、
一本でやってきた人はいろんな経験、色をちょっと深めてみればいい。
自分にとっての「リッチブラック」を見つけるのが
人生の醍醐味なのかもしれないな、と思うと、
いろんな経験、色でどんどん黒くなってきた我が人生が
なんとも愛おしく思えて、明日からの毎日がまた
めちゃくちゃ楽しみになりますね。

河村羽美(2012年12月1日)

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