いちばん怖いのは・・・。

わたしはものすごく怖がりだ。
お恥ずかしながら、ひとり暮らしを始めるまでは、
祖母と一緒の部屋で寝起きしていたほどで、
いまだにひとりで寝るとき暗がりは怖い。
お風呂で目をつむるのも恐ろしく、
シャンプーのCMみたいに、目をあけたまま
髪の毛を洗うワザも身に付いている。
テレビで怪談なんかを見ちゃったら最後、
そこから数日はふとした瞬間に思い出し、
家中の電気を煌々とつけてなければ夜はやり過ごせない。

こどもの頃は、夜中にひとりでトイレに行くのも怖くて、
一緒に寝ている祖母を起こしてついてきてもらっていた。
そんなふうに迷惑を被っていたからか、
わたしが怖がるたびに、祖母はこう言うのだった。

幽霊なんかいやへん。いたとしても怖ない。
いちばん怖いのは生きてる人や。


確かに、いきなり知らない人から切りつけられて、
みたいなことは、幽霊に遭遇するよりも恐ろしい。
あるいは詐欺にあって借金まみれ、とかも怖いと思う。
幸い、実際にそういう類の怖いできごとには
遭遇せずにこれまでやってきたのだけれど、
なぜこのことばを思い出したのかというと、
いわゆる「怖い」のとは違うことで
「人って怖いなあ」としみじみ思うことが増えている、
ということに最近気がついてしまったからなのだ。

わたしが怖いと思っているのは、
命にかかわることでもなんでもない。
でも、一部の特殊な人だけではなくて、
誰だって、わたしだって怖い人になり得るのだ、
ということがいちばん怖いポイントだ。

「誰にも言わないでね」で始まるうわさ話や打ち明け話。
こころの中にそっとしまい、口をつぐんでいたにもかかわらず、
なぜか別の人からその話が耳に入ってくること、よく起こる。
そっと打ち明けたに違いない秘密の相談ごとっぽい内容なのに、
関係ないわたしの耳に、ゴシップ的に入ってくることもある。
よからぬ、事実と異なるうわさ話を耳にして、
うわさされている本人に「こんなふうに言われてるよ!」
とわざわざ耳打ちして傷を広げてしまう人だっている。
これらは全て、誰も悪意を持ってしているのではない。
誰かを傷つけようなんて気もきっとない。
なかには善意から起こることだってあるだろう。

なあんだ、そんなこと、と思われるかもしれない。
けれど、これって、よくよく考えたら怖くないですか?
小学生の頃からそういうことはよくあったから、
それがあたりまえなのだとは思うけれど、
ふと恐ろしいと思ってしまったのだ。
なにせ、わたしもこれまで、意識的か無意識かは別として、
そういうことをたくさんしてきたんだろうな、と思うわけで。
誰だって持っている、ひとの怖さの一面なのかもしれない。

祖母がどんなつもりであのことばを言っていたのか、
今となってはもうわからないのだけれど、
できるだけわたしは、こういうこわさを感じないで、
つまり、そういう環境を望まないようにしながら、
のほほんと生きていけないものかなあ、と、
感じているのでありました。

河村羽美(2013年6月29日)

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