<なにがダメなの。>

夕暮れの帰り道、
まだ小さいノラ犬が、
くぅんという消えそうな鳴き声で、
いまにも泣きそうについてきて、
「ごめんな、でもダメなんだ。」
とその仔犬にさとすようにいい、
あるいはじぶんに言い聞かすように
つぶやいて足早に去っていく。
脈なしだとわかるように。

実際には、
ぼくにはそんな経験はないのだけれど、
いまになって思い返すと、
これに似たようなことは、
あるいはしてきたのかもしれません。

それは、ある女の子かもしれないし。
もしくは、小さな夢かもしれないし。
うまく思い出せないだけで、
いっぱいあったはずなのです。

ぼくのこころがぼくにいう。
「ぼく、小説家になりたい!」
(ごめんな、でもダメなんだ。)
「ぼく、ミュージシャンになりたい!」
(ごめんな、でもダメなんだ。)
「ぼく、あの人と一緒にいたい!」
(ごめんな、でもダメなんだ。)

なにが、どう、ダメなのだろう。
それなりにオトナになって、
いろんなことを、じぶんの意志で、
自由に決められるようになって、
それでもなお、
なにが、どう、ダメなのだろう。

ぼくはもう、じぶんの意志と責任で、
その仔犬を抱きかかえて、
つれて帰ってもいい年齢になったのだ。
いつの間にか、なっていたのだ。

人生を賭けたい夢が、
生涯を共にしたい人が、
もしそこで泣いていたのなら、
謝って、あきらめないで、
笑顔で抱きかかえていいんだぜ、ぼくよ。

イデトモタカ(2012年4月14日)