<偉大な凡人。>

ゴッホのような絵描きになりたかった。
友人のデザイナーがいっていた。

もちろん絵もたくさん描いた。
何度か他の人と個展もやった。
作品を買ってもらったこともあるし、
じぶんながらに中々いい出来の絵も描いた。

けれど、あるとき気がついた。
創作意欲が湧くのは、不幸なときだった。
悲しいことがあったとき、辛いことがあったとき、
インスピレーションが爆発する。
あれだけ探していたモチーフやテーマが、
そのときだけは洪水にようにじぶんを呑み込む。

体から突き抜けて外に出たものが、
そのまま絵筆をとおして絵になった。
あとで見返すと、じぶんが一番驚く。
こんなものが描けたのかと。
また、そのときに描いた絵を
きまってほめてくれるファンも出てきた。

そしてあるとき悟った。
偉大な画家のように絵を描くためには
凄まじいエネルギーがいる。
そしてそのエネルギーは、じぶんのなかにもある。
ただそれは、不幸の谷から噴き出している。
絵描きになるには、ぼくには不幸が必要だ。

しばらくは悩んだが、友人は賢明だった。
愛する人と結婚し、幸福になった。
デザイナーとして事業をし、小さな成功も収めた。
もう描けない。
幸福を選択したときに、それを了承した。

彼は芸術を乗り越えた。
夢を克服した。

イデトモタカ(2015年3月16日)