<逃げるが。>

人生は「いまこの瞬間」にしかない。
そんなことはわかっていても
「いまこの瞬間」を忘れるためなら
「いまこの瞬間」から逃れるためなら
ぼくらはいつもなんだってする。

時間がないと嘆きながら
いくらでも時間を無駄にする。
余裕がないと喚きながら
いくらでもお金を投げ捨てる。

それもこれも人生から逃れるためだ。
それもこれも人生を忘れるためだ。
遠回りの、嘘っぱちの、仮初の
ネオンライトのような夢中に逃げ込む。

人生は「いまこの瞬間」にしかない。
けれど「いまこの瞬間」をぼくらは
見ないふりをする。
忘れよう、逃れようと必死になる。

ただ皮肉にも人生最大の幸福もまた
「いまこの瞬間」の消滅にある。
夢中になる、熱中する、無我夢中。
文字どおり人生から離れて
夢の中、熱の中にいるとき
ぼくらは壮大な幸福に包まれる。

その最中にはなにもない。
体も意識も溶け出して
あとになって幸福だったことを知る。
人生を生きていたことに気づく。

人生は「いまこの瞬間」にしかない。
逃げるも自由。
逃げないも自由。
「いまこの瞬間」を積み上げて
ぼくらは次の場所に着く。

望もうが、望むまいが。

イデトモタカ(2015年7月26日)