<悲しいもの。>

じぶんの書いたものや、
書いているものを見ていると、
自然に手に任せると、
楽しい側ではなく、悲しい方向へと
向かいがちであることが、
不満といえば不満でありました。

明るさよりも、どこか暗さを感じる。
明るいものを書いているつもりでも、
深部にはどこか暗さを抱いている。
そういう文章しか書けないことは、
意識してなにかを書きはじめてから、
長い間疑問なのでした。

けれど、なんてことはない。
シンプルな話だったのです。
ぼくは、楽しいことよりも、
悲しいことのほうが好きだったのだ、
ということなのです。

そんなこと、あるもんか。
人間は誰しも楽しいことが好きで、
悲しいことが好きな人なんて、
そんな人いるわけがないと思う人は、
もしかすると「カシミア」の読者では
なかったのかもしれません。

あなたがどう思っているのかはわかりませんが、
もし「カシミア」を好きだと言ってくれるなら、
あなたとぼくの間には、悲しいことに惹かれるという、
少しマイナーな共通点といいますか、
共感の紐があるのではないかと思われます。

もちろん楽しいことは大好きです。
楽しい食事、楽しい時間、楽しい一時を
愛しております。
でも、それとは別に、悲しいものからも、
どうしようもなく離れられない気がします。

悲しいものが好き。
ことばにしてみるとおかしいですが、
事実として受け容れてみると、
また一つじぶんのことがわかった気がします。
あの人と気が合うのも、あの人と気が合わないのも、
生きやすい場所と、生きにくい場所があるのも。

あなたがぼくの文章を好きだといってくれるなら、
あなたとぼくは、似ていなくてなんなのさ。

不思議なご縁ですね。悲しいものが好きなんて。

イデトモタカ(2016年3月29日)