<役に立たない授業。>

大学生5年目のとき、
おもしろい授業がありました。
生徒が席につくなり、初老の教授はいいました。

「世の中には、
役に立つ勉強と、役に立たない勉強がある。
そして、
役に立つ授業と、役に立たない授業がある。
わたしの授業は、役に立たないから。
では、よろしくお願いします」

・・・・。

ぼくら生徒は、みんなぽかんとした顔をしました。
そして教授は化学者ファラデーの話を始めました。


いまから200年以上前のこと、
英国にマイケル・ファラデーという化学者がいました。
彼はいろいろな実験や発明をおこない、
あたらしい発見があると、
それを町の有力者や富豪を家に招いて披露していました。
招かれた人たちは、その不思議でおもしろい彼の発見を、
マジックショーを観るようにたのしんでいました。

ある日、彼はまた客人たちを招待して、
最新の成果(発見)を見せていました。
いつものように歓声があがり、拍手が鳴り終わった頃、
奥にいた一人の男性が立ち上がり、彼にいいました。
男性は町の成功した富豪でした。
「ファラデーさん、ありがとう。
あなたの発見は、確かにとてもおもしろい。
でも、だからって、それが何の役に立つっていうんだ?」
室内が静まりかえります。
口にはしていなかったものの、他の観客たちも、
やはり男性と同じ思いを抱いていたからです。

そういわれたファラデーさんは、その問いにこう答えました。

「ええ、確かに。あなたのおっしゃるとおりです。
この発見は、今はまだ何の役にも立たないでしょう」

そして、黙る観衆に対し、さらにつづけてこういいました。

「では、みなさんにお聞きしますが、
生まれたばかりの赤ん坊は、なにかの役に立っていますか?」

・・・・。

だれも、なにもいえません。
ファラデーさんはいいます。

「生まれたばかりの赤ん坊は、
おそらく何の役にも立っていないでしょう。
むしろ、手間ばかりかかって大変です」

聴衆の反応を見て、
ファラデーさんが最後のことばをいいました。

「では、その赤ん坊は、
まったく価値がないのでしょうか?」

生まれたての赤ん坊は、役に立たないので、価値がないのか?
もちろんそんなわけがありません。
むしろ、世界でもっとも価値のある、貴い存在です。
ファラデーさんは、新しい発見や、できたばかりの発明も、
この赤ん坊と同じだといいます。
確かに今は、まだ何の役に立つのかわかりません。
けれど、そこには無限の可能性があるのだ、と。


じっと話に聴き入っているぼくらを前に、
初老の教授は穏やかな声でいいました。
わたしがこれから教える、現代の文明に関する講義も、
一見しては、きっと何の役にも立たないように思えるでしょう。
しかし、将来、ここで得た知識や経験が、
どうなるのかまではわかりません。
いまの君たちに、すぐに役に立つ授業ができるかは難しい。
けれど、必ずいつか「よかった。」と思ってもらえるように
一所懸命伝えます。
では、みなさん、これから半年間、よろしくお願いします。

ちなみに、あのときファラデーさんが披露していた、
何の役にも立たなそうだった発見は、
実は『電磁誘導の法則』でした。
これは現在の発電所の基礎となっている、大発見でした。

イデトモタカ(2009年4月17日)