no.31 『芸術起業論』 著:村上隆(2) cart

一 節

どう生き残るか。
弱者である芸術家は、そのことを抜け目なく
考えないといけません。

感想文

歳はずいぶんと離れていますが、
ぼくのごく近しい人が、声優学校に通って
声優になったことがありました。
もう十五年以上も前の話ですが、
確かその彼の当時の師匠は、
昔の『ドラえもん』のスネ夫の声の方でした。

アルバイトをしながらお金を貯めて、
声優学校に入って、ようやく卒業し声優として
いくつかの仕事もうけたらしいのですが、
最終的には生活が苦しくてやめてしまいました。

「声優になることはできる。
 でも、声優でありつづけることは難しい」

それは彼が言っていたのか、彼が師匠から
云われたことばを聞いたのかは忘れてしまいましたが、
いまでもたまに思い出す台詞です。

好きなことをつづければ、得意なことになる。
得意なことをつづければ、人の役に立つことになる。
人の役に立つことをつづければ、
お金が得られるようになり、また、それがつづけられる。

元日本スターバックス社長の岩田松雄さんが、
ぼくの名古屋の師匠と話しているときに、
そういうことをおっしゃっていました。
そして、どれだけ好きなことでも、
人の役に立たなければお金は得られないし、
お金が得られなければつづけられないから、
やっぱりそこが大事なんだということを、
強調されていたように思います。

ぼく自身は物書きですが、周りには音楽関係のことを、
それは演奏者だったり作曲者だったり歌手だったり
いろいろですが、一生懸命にやっている人がたくさんいます。
彼らはお金をもらってステージに上がっているわけですから、
れっきとしたプロです。
でも、左うちわのラクな生活をしているかといえば、
そんなことはなく、実際はなかなかむつかしそうです。

特に芸術性の高い分野で「人の役に立つ」ことは、
並大抵のことではありません。
詩で、あるいは小説で、ヴァイオリンの演奏で、歌声で、
人を感動させ、ある種の魂の救済ができてはじめて
芸術は人の役に立ちます。
ぼく自身もまだまだですが、そのレベルに達するためには、
相当にそのことを「つづける」必要があります。
一朝一夕でできることではないですから。

だからこそ、ここに矛盾が生まれます。
まだ役に立たないのなら、そこから十分なお金は得られません。
けれど、それをつづけなければ、お金を得られる、
人の役に立てる段階にまで到達できません。
つまり、その状況で「どう生き残るか」。
それが芸術家として生きていくことを選んだ人の課題です。

過去の芸術家のようにパトロンを見つけるもよし、
幸運にも家が裕福ならそれに甘えさせてもらうもよし、
社会の目を無視してアルバイトでなんとか食いつなぐもよし、
なんであれ、抜け目なく考えて、つづける必要があります。

幸運あれ。

イデトモタカ(2014年1月2日)

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