no.33 『裂』 著:花村萬月(1) cart

一 節

嘘は嘘であるがゆえに、いつだって不自由なんだ。

感想文

一つの噓を守りとおすには、
その噓をとりまく無数のホントが必要になる。
けれどそのホントのなかにまた噓が交じると、
また必要になるホントの数が膨大に増え、
そしていつしかホントが不足して破滅してしまう。

それは現実の世界でも、フィクションの世界でも同じ。
小説というものは、そもそもが大きな虚構だ。
けれど噓ではない。
噓ではないから、そのなかに一つ大きな噓があったなら、
その周囲はすべてホントでなければならない。
少なくとも、その虚構の世界でのホント。
それがむつかしく、そしてそれさえわかっていれば、
物語を書くなんてことは簡単だ。
面白いかどうかは別として。

一方で実世界は虚構ではない。
だからそもそも、大きな噓が成立しにくい。
じぶんのことを誰も知らない街に移り住み、
そこで年齢だけを十歳詐称したとする。
それ以外はぜんぶホント。
名前も、顔も、性格も、家族構成も、思い出も、ぜんぶ。
この奇妙な人物の噓がばれないかどうかの生命線は、
どれだけ年齢をとりまくすべての話題を、
ホントで埋め尽くせるかにかかっている。

もしそこで、年齢が噓だからと、
その周りもすべて噓をついてしまったら、
いつかホント不足でばれてしまうだろう。
反対に、年齢以外に噓が一つも混じっていなければ、
なかなかそのたった一つの大きな噓は見破れない。

つまり虚構の世界でも、現実の世界でも、
噓をつきとおせるかどうかは「ホント残高」が問題だ。
もちろん話半分で聞いてもらいたいわけだけれど、
噓をつくのなら、ホント残高を常に意識しよう。
そこで不渡りを一度でも出せば、飛んじゃうぜ、と。

イデトモタカ(2014年1月13日)

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