ESSAY
はじめてを奪いたくなくて。
2023-10-16
「筆一本で食べてきた」と言うと、ちょっと格好良すぎますが、まあ大嘘でもないので許してください。二十歳を過ぎた頃から、文章というのか、文字というのか、要するに「書く」ことで身の回りのものを買い、食べて、暮らしてきました。けれど十五年近くは、「書く」といっても、「広告」という領域での言葉や文字に値段がつけられて、買われてきたわけです。
それが今年になって、ようやっと本が出まして、広告ではない、言い換えれば他の誰かの商品やサービスの〈紹介〉ではない、自分の考え、自分の言葉をつらねたものに価値がつけられ、買われるようになりました。「ここ」やせっかく始めたニュースレターの更新が止まった理由を挙げるとすれば、やはりそれが原因ではないかと思います。
出し(書き)渋るようになった、というわけではないのです。それは誓って違います。その証拠に、僕は頼まれれば割りとほいほい本来プロとしてお金を貰うべき文章や言葉を、いいよいいよと書いてしまいます。いい人と思われたい、という下心もあるのでしょうが、そんなにも「もったいぶっている」わけではないのです。
ではなぜ、これまで十数年もつづけてきたエッセイを、出版を機に急に書かなくなったのかといえば、「本で書くかもしれない」と考えるようになったからです。いいえ、誤解してほしくないのは、「本で書くほどの〈有料〉の内容だから、〈無料〉で書くのはもったいない」という意味ではありません。有料か無料かは正直ほとんど気にしてません。
そうではなく、「本になるかもしれないのであれば、どうせなら、本ではじめてその言葉に出会って(読んで)ほしい」と思ってしまうのです。人やモノと同様に、言葉やメッセージも、「どこで」出会うかが大事だと思っています。「はじめて」の衝撃に敵うものはありません。それゆえに、「ここ」やニュースレターで読んだ内容を、本に再録した際に、「ああ、前に読んだ」と思われるのが、なんというか、どうにも好ましくないように思えてしまって。
妙な言い方になりますが、僕の本は有料ですから、せっかくであれば、有料で手にしていただいたもので、きちんと衝撃を受けてほしいなと。それを思うと、ここでいろいろ普段から書き殴るのは、どうなのだろうかと。あまり免疫のない状態で触れてほしいというか。いえ、「ここ」で書くことを、はるかに超える内容を、本にすればいいだけの話なのですけれどね。まあそういったくだらないことを思っている次第です。
では、また書きます。
二冊目の出版も決まりました。出版業界はずいぶんとのんびりです。
NEWS LETTER
イデトモタカの言葉の再定義
無料でぜんぶ読めるぞ
辞書は「自分用」にはできていません。辞書を引けば言葉の一般的な意味はわかります。けれど、実際に「使える道具」として、新たな価値を生み出すためには、その言葉を磨き再定義する必要があります。ここでは僕が使いやすいように解釈、咀嚼し、再定義した言葉を紹介していきます。
PRoFILE

イデ トモタカ Ide Tomotaka
著述家、コピーライター
大学在学中からビジネスを行い、一度も就職することなくコピーライターとして独立。DRM(ダイレクト・レスポンス・マーケティング)の世界に没頭し、26歳のとき広告費10万円で7億円を売り上げる。現在は大企業を中心にインターナル・メッセージの制作、教育プログラムの開発を担う。UXを動画や身近な事例で解説する専門メディア「UXジャーナル」のメイン編集を務める。2010年、Numero TOKYO×Loewe「ロエベ・レザースタイリングコンテスト」男子部門優勝。株式会社letter 代表取締役。2023年3月、ぱる出版より『フリーランスで「超」成果を上げる プロジェクトワーカーとしての働き方』を上梓。
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