ESSAY
努力しても。
2023-07-23
また、小林秀雄の言葉の引用から始めたいと思います。
“諸君も巧い文章を書こうと努力されておると存じます、私も大変努力しております。併しお互に努力しても巧くなるとは限らぬ事だけは確かです。”
分野を問わず、巧くなるには努力しなければなりません。けれども、努力したからといって、巧くなるとは限らない。並々ならぬ努力をしたからいって、それは同じです。小林秀雄をしてそう言うのですから、それはもうそう心得るしか仕様がありません。
いいえ、「小林秀雄だから」と無批判に盲目に「是」としているわけではないのです。僕にも同様の実感が確かにあるからです。
僕も無論、巧い文章を書こうと努力してきましたし、今なお努力しています。名文を書き写すということにおいては、みなさんの想像以上に僕はやってきています。小説をまるごと一冊書き写したり、ある人の文章を毎日欠かさず、三年近く書き写してもきました。文字数にすれば七十万文字から百万文字になるでしょうか。文庫本に換算すれば十冊くらいでしょうか。
それだけの巧い人の言葉を書き写してきましたし、さらにその数倍から十数倍の文字を、今度は消化した自分の言葉としてこうしたエッセイであったり仕事を通じて書いてきました。
それでも、巧い文章にはなかなかなりません。巧くなるとは限りません。だからといって、他に有効な方法があるのかといえば、難しいです。
巧くなるには努力しなければならない。でも努力したからといって巧くなる保証など一切ない。むしろ巧くなる確率の方が低い。そんな、なんとも分の悪い〈賭け〉ですが、それでもやるほかないのです。
冒頭の小林秀雄の文句を読んで、僕は絶望するより安心しました。あの小林秀雄をしてそうなのだから、なんてことはない、愚鈍な自分はさらに努力して、巧くなろうとするしかないのだなと。文章がもっと巧くなりたいとは切望しますが、なろうがなるまいが、そう変わらぬ人生を送るまでです。ではどこに問題がありますか。
では、また書きます。
やっぱりエッセイが好きですね。読むのも書くのも。
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イデトモタカの言葉の再定義
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辞書は「自分用」にはできていません。辞書を引けば言葉の一般的な意味はわかります。けれど、実際に「使える道具」として、新たな価値を生み出すためには、その言葉を磨き再定義する必要があります。ここでは僕が使いやすいように解釈、咀嚼し、再定義した言葉を紹介していきます。
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イデ トモタカ Ide Tomotaka
著述家、コピーライター
大学在学中からビジネスを行い、一度も就職することなくコピーライターとして独立。DRM(ダイレクト・レスポンス・マーケティング)の世界に没頭し、26歳のとき広告費10万円で7億円を売り上げる。現在は大企業を中心にインターナル・メッセージの制作、教育プログラムの開発を担う。UXを動画や身近な事例で解説する専門メディア「UXジャーナル」のメイン編集を務める。2010年、Numero TOKYO×Loewe「ロエベ・レザースタイリングコンテスト」男子部門優勝。株式会社letter 代表取締役。2023年3月、ぱる出版より『フリーランスで「超」成果を上げる プロジェクトワーカーとしての働き方』を上梓。
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