ESSAY

2011-10-27

世界なんて、どうでもいい。

ほんとに「最期」というものがじぶんの肩に手をかけたときに思ったのは、ふだんのシミュレーションとは全くちがう、という当たり前のことだった。そう話してくれたともだちがいました。そのともだちは、健康診断にいったとき、肝臓に黒い影が見つかって、それもすごい大きいもので、もしかしたら癌かもしれないからと、精密検査をしたそうです。そして、結果は8日後に郵送でお送りします、といわれて、その病院を出ました。そこからの8日間は、たった数時間前までとなにも変わらないのに、いつもどおり元気なのに、気が気じゃなかったそうです。

その恐ろしい宣告をまだ受けるまえのこと、ともだちどうしで「もし寿命があと一年だとしたら、どうする?」という話をしたことがあったそうで、そのときには旅行が大好きだから世界中を旅して、まだ行ったことのない場所や、知らない人たちにたくさん会いにいきたい、と思っていたのだそうです。

でも、いま、実際にその「もし寿命があと一年だとしたら」の状態にじぶんがなるかもしれないことなった。そこで検査結果が出るまでの間に、再度同じ質問をじぶんにしたそうです。「もし寿命があと一年だとしたら、どうする?」すると、ぜんぜんちがう答え出たと教えてくれました。

一言でいうと、「お礼まわり」だったそうです。これまでに出会った、これまでにお世話になった、あらゆる人に、可能な限りお礼を云いに行きたい。みんなに「ありがとう」と伝えたい。旅行なんて、どうでもいい。世界なんて、どうでもいい。会ったことのない知らない人より、いつも一緒にいる大好きな人たちと過したい。

「ありがとう、わたしの人生は、あなたたちのお陰で最高でした」つまり、そういうことを伝えたいと、残り一年ぜんぶを使っても、そうしたいと思ったそうです。そして、最期は世界のまだ見ぬ絶景の場ではなく、大好きな家族に囲まれていたいと、強く願ったそうです。

8日後に送られてきた精密検査の結果では、「問題なし」だったので、よかったのですが、そういうことを考える、なんというか、恐かったけど、いい機会だったといってました。実際には、ほんと、そうなんだろうなぁと思いました。

イデトモタカ