ESSAY

2012-04-20

返せないもの。

貸したものが返ってこない、というのは困ったものですが、それ以上に、借りたものを返せない、というのは、もっとうんと、苦しいことなのです。

貸したものが、どんなにかじぶんにとって大切なものだったとしても、いまじぶんはそれがなくてもどうにかやっていけてるわけだから、諦めることも、忘れることも、仕方ないさと笑うことも、案外できるものなのです。

けれど、借りたものを返せない、返す意志もチカラもあるのに、その術がないというのは、その借りているものがどんなものであれ、大事なものであれつまらないものであれ、ひじょうに辛いものなのです。いいようによっては、迷惑なものなのです。

モノだけでなく、恩にしても、情けにしても、それを与えたほうは、返ってこなくたって、ぜんぜん平気に笑ってられます。でもそれを、返したくて返したくて返したいのに、そのときにはもうその術がないほうは、うんとずっと悲しいものです。

そうやっていちばん返したかった相手に返せなかったバトンをどんどん受け継いで、出来上がったすてきすぎるこの世界です。

イデトモタカ