ESSAY

2015-03-16

偉大な凡人。

ゴッホのような絵描きになりたかった。友人のデザイナーがいっていた。

絵をたくさん描いた。他の人と個展もやった。作品を買ってもらったこともあるし、我ながらいい出来の絵も描いた。

けれど、あるとき気がついた。創作意欲が湧くのは、不幸なときだった。悲しいことがあったとき、辛いことがあったとき、インスピレーションが爆発する。あれだけ探していたモチーフやテーマが、そのときだけは洪水のようにじぶんを呑み込む。

体から突き抜けて外に出たものが、そのまま絵筆をとおして絵になった。見返すとじぶんが誰より驚く。こんなものが描けたのかと。また、そのときに描いた絵をきまってほめてくれるファンも出た。

そしてあるとき悟った。偉大な画家のように絵を描くためには、凄まじいエネルギーがいる。そのエネルギーは、じぶんのなかにもある。ただそれは、不幸の谷から噴き出している。絵描きになるには、ぼくには不幸が必要だ。

しばらく悩んだが、友人は賢明だった。愛する人と結婚し、幸せになった。デザイナーとして事業をし、小さな成功も収めた。もう描けない。幸福を選択したときに、それを了承した。

彼は芸術を乗り越えた。夢を克服した。

イデトモタカ