ESSAY

2015-06-04

キャプテン。

船長のいない船はいたるところにある。乗り込んだ船に、船長がいないことに気づくことがある。そのとき「とんだ貧乏くじだ!」と思う人がある。そのとき「船長になるチャンスだ!」と思う人がある。

船長のいない船はたいてい難破する。みんなが責任回避して指示を待っているうちに、望んでもいない場所に流されて、ぷかぷか無駄に漂う。

船長のいない船で船長に名乗りを上げると、やたらとやることがあるのに気づく。そこで残念な船の乗組員に戻ることもできるけれど、やってやろうと船長としての仕事を始めたなら、船はいつかあなたの望んだ場所に着く。

ぼくらは同時に何艘もの船に乗っている。船長のいる船もあれば、いない船もある。あなたが船長の船もある。

車は何もしなければ動かないけれど、船は何もしなくても波に流されていく。ぼくらが乗っているのは車ではなく船なのだ。あなたが何もしなくても、船が勝手にあなたを運ぶ。

これは私の船だと胸を張っていえる人は幸運だ。その人はじぶんの望む場所へ進んでいる。もし辿り着かなかったとしても、航海の時間は充実している。

ここでは私が船長だといえる船がない人は、たぶん何かを勘違いしている。船はいたるところに浮かんでいるのだ。船長不在の船ばかりが漂っているのだ。あなたがその気にさえなれば、船はいつでも船長を待っている。

イデトモタカ