ESSAY

2016-03-29

悲しいもの。

じぶんの書いたものや、書いているものを見ていると、自然に手に任せると、楽しい側ではなく、悲しい方向へと向かいがちであることが、不満といえば不満でありました。

明るさよりも、どこか暗さを感じる。明るいものを書いているつもりでも、深部にはどこか暗さを抱いている。そういう文章しか書けないことは、意識してなにかを書きはじめてから、長い間疑問なのでした。

けれど、なんてことはない。シンプルな話だったのです。ぼくは、楽しいことよりも、悲しいことのほうが好きだったのだ、ということなのです。

そんなこと、あるもんか。人間は誰しも楽しいことが好きで、悲しいことが好きな人なんて、そんな人いるわけがないと思う人は、もしかすると「カシミア」の読者ではなかったのかもしれません。

あなたがどう思っているのかはわかりませんが、もし「カシミア」を好きだと言ってくれるなら、あなたとぼくの間には、悲しいことに惹かれるという、少しマイナーな共通点といいますか、共感の紐があるのではないかと思われます。

もちろん楽しいことは大好きです。楽しい食事、楽しい時間、楽しい一時を愛しております。でも、それとは別に、悲しいものからも、どうしようもなく離れられない気がします。

悲しいものが好き。ことばにしてみるとおかしいですが、事実として受け容れてみると、また一つじぶんのことがわかった気がします。あの人と気が合うのも、あの人と気が合わないのも、生きやすい場所と、生きにくい場所があるのも。

あなたがぼくの文章を好きだといってくれるなら、あなたとぼくは、似ていなくてなんなのさ。

不思議なご縁ですね。悲しいものが好きなんて。

イデトモタカ