ESSAY

2009-04-17

役に立たない授業。

大学生5年目のとき、おもしろい授業がありました。生徒が席につくなり、初老の教授は言いました。

「世の中には、役に立つ勉強と、役に立たない勉強がある。そして、役に立つ授業と、役に立たない授業がある。わたしの授業は、役に立たないから。では、よろしくお願いします」

……。

ぼくら生徒は、みんなぽかんとした顔をしました。そして教授は化学者ファラデーの話を始めました。

いまから200年以上前のこと、英国にマイケル・ファラデーという化学者がいました。彼はいろいろな実験や発明をおこない、あたらしい発見があると、それを町の有力者や富豪を家に招いて披露していました。招かれた人たちは、その不思議でおもしろい彼の発見を、マジックショーを観るようにたのしんでいました。

ある日、彼はまた客人たちを招待して、最新の成果(発見)を見せていました。いつものように歓声があがり、拍手が鳴り終わった頃、奥にいた一人の男性が立ち上がり、彼に言いました。男性は町の成功した富豪でした。

「ファラデーさん、ありがとう。あなたの発見は、確かにとてもおもしろい。でも、だからって、それが何の役に立つっていうんだ?」

室内が静まりかえります。口にはしていなかったものの、他の観客たちも、やはり男性と同じ思いを抱いていたからです。

そういわれたファラデーさんは、その問いにこう答えました。

「ええ、確かに。あなたのおっしゃるとおりです。この発見は、今はまだ何の役にも立たないでしょう」

そして、黙る観衆に対し、さらにつづけてこういいました。

「では、みなさんにお聞きしますが、生まれたばかりの赤ん坊は、なにかの役に立っていますか?」

……。

だれも、なにも言えません。ファラデーさんは言います。

「生まれたばかりの赤ん坊は、おそらく何の役にも立っていないでしょう。むしろ、手間ばかりかかって大変です」

聴衆の反応を見て、ファラデーさんが最後のことばを言いました。

「では、その赤ん坊は、まったく価値がないのでしょうか?」

生まれたての赤ん坊は、役に立たないので、価値がないのか? もちろんそんなわけがありません。むしろ、世界でもっとも価値のある、貴い存在です。ファラデーさんは、新しい発見や、できたばかりの発明も、この赤ん坊と同じだといいます。確かに今は、まだ何の役に立つのかわかりません。けれど、そこには無限の可能性があるのだ、と。

じっと話に聴き入っているぼくらを前に、初老の教授は穏やかな声で言いました。

「わたしがこれから教える、現代の文明に関する講義も、一見しては、きっと何の役にも立たないように思えるでしょう。しかし、将来、ここで得た知識や経験が、どうなるのかまではわかりません。いまの君たちに、すぐに役に立つ授業ができるかは難しい。けれど、必ずいつか「よかった」と思ってもらえるように一所懸命伝えます。では、みなさん、これから半年間、よろしくお願いします」

ちなみに、あのときファラデーさんが披露していた、何の役にも立たなそうだった発見は、実は『電磁誘導の法則』でした。これは現在の発電所の基礎となっている、大発見でした。

イデトモタカ